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矢崎節夫館長コラム「芒とお日さま」2025年10月1日
芒とお日さま
――もうすこし、
――もうすこし。
芒はせい伸びしています。
あまり照られてしおれそな、
白いやさしいひるがおを、
どうにか、蔭にしてやろと。
――もうすこし、
――もうすこし。
お日はぐずぐずしています。
まだまだ籠は大きいに、
あれっぽちしかよう刈らぬ、
草刈むすめがかあいそで。
「金子みすゞ童謡全集」JULA出版局
夜になると虫の鳴き声が聞こえてきて、思わず耳をすませる季節になりました。
秋には芒がよく似合います。もしかすると、野口雨情の『船頭小唄』の一節が、芒の佇まいを印象深くしているのかもしれません。
みすゞさんの『芒とお日さま』の芒は、私たちを元気にしてくれる作品です。
芒がせい伸びしているのは、弱っている昼顔に蔭をつくろうと、お日がぐずぐずしているのは、草刈むすめの籠がまだ少ししかたまっていないからとうたっています。
でも本当は芒は自分が大きくなりたいから懸命に伸びているのです。お日さんも全ての存在に懸命に照っているのです。どちらも自分のやるべきことを一生懸命にやることが、結果として他の存在にとっていいことになっている、私たちの宇宙はじつはそのようにして成り立っているということを、若いみすゞさんが気づいていたことに驚かされますね。
みすゞさんはすごいと改めて思います。
令和7年10月1日
金子みすゞ記念館 館長 矢崎 節夫