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矢崎節夫館長コラム 「梨の芯」 2024年2月1日
梨の芯
梨の芯はすてるもの、だから
芯まで食べる子、けちんぼよ。
梨の芯はすてるもの、だけど
そこらへほうる子、ずるい子よ。
梨の芯はすてるもの、だから
芥箱へ入れる子、お悧巧よ。
そこらへすてた梨の芯、
蟻がやんやら、ひいてゆく。
「ずるい子ちゃん、ありがとよ。」
芥箱へいれた梨の芯、
芥取爺さん、取りに来て、
だまってごろごろひいてゆく。
「金子みすゞ童謡全集」JULA出版局
みすゞさんの詩を読むと、時々、どきっとする一行に出会います。そして、どきっとした後に、自分自身が育ててもらった気持ちがしてうれしくなります。
『梨の芯』を読むと、“けちんぼよ。”とか、“ずるい子よ。”とか、なんだかにこにこしてきます。みすゞさんではなく、テルちゃんが目の前にいるようで、かわいいなと思わず声に出てしまいます。
そのかわいさの中で、“そこらへすてた梨の芯、/蟻がやんやら、ひいてゆく。/「ずるい子ちゃん、ありがとよ。」”
このずるい子ちゃん、ありがとよの一行は、私自身の常識をがらっとひっくり返されて、なんだか心もからだもやわらかくなる、うれしい体験でもありました。
童謡の世界がみすゞさんの甦りで、豊かで、広々とした、やわらかさで満たされているのを感じます。みすゞさん、生まれてくれてありがとうと心からおもいます。
令和6年2月1日
金子みすゞ記念館 館長 矢崎 節夫