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矢崎節夫館長コラム 「去年」 2023年12月1日
去年
お舟、みたみた、
お正月、元旦、
旗も立てずに黒い帆あげて、
ここの港を出てゆく舟を。
お舟、あの舟、
乗ってるものは、
きょうの初日に追い立てられた、
ふるい去年か、去年か、そうか。
お舟、ゆくゆく、
あのゆく先に、
去年のあがる港があるか、
去年を待って、たあれか居るか。
去年、みたみた、
お正月、元旦、
黒い帆かけたお舟に乗って、
西へ西へと逃げてく影を。
「金子みすゞ童謡全集」JULA出版局
12月になると、師走といわれるだけに急に心ぜわしくなりますが、そんな時は『去年』をふと思い出すことがあります。
“お舟、みたみた、/お正月、元旦、”と明るい出だしで始まりますが、その後は見えることしか見ていない自分にどきっとさせられる、さすがにみすゞさんだと思えるフレーズが続きます。
“旗も立てずに黒い帆あげて、/ここの港を出てゆく舟を。”
“きょうの初日に追い立てられた、/ふるい去年か、去年か、そうか。”
“去年のあがる港があるか、/去年を待って、たあれか居るか。”
来年になると、もう今年は去年になって忘却の彼方へと忘れてしまう今、今年です。だからこそ、一年の大切な終わりの月として、一日一日大切に過ごしたいと強く思います。
暮れには館の内容も変わります。来年を楽しみによい12月をお過ごしください。
令和5年12月1日
金子みすゞ記念館 館長 矢崎 節夫