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矢崎節夫館長コラム 「こわれ帽子」 2023年11月1日
こわれ帽子
てんてん手毬、
おててん手から、辷ってころげて、
乞食の子供にひろわれた。
手まりは欲しし、怖さは怖し、
睨みゃ、睨んでほうってくれて、
行くか、帰るか、あち向きかけて、
麦藁帽子をすぽりとかぶりゃ、
すぽり、こわれた、こわれた、帽子、
つばがすぽりとくびまで抜けた。
くるり、ふりむき、アハハと笑うた、
私もうっかり、アハハと笑うた。
こわれ帽子の、そのゆくみちにゃ、
とんぼ、千も万も舞い舞いしてた。
「金子みすゞ童謡全集」JULA出版局
みすゞさんの詩を読むと、ぼくの大好きなチャップリンの映画のような作品もあって、空からふさえさんの笑い声が聞こえてくるような気さえします。
『こわれ帽子』です。まず声に出して読んでください。きっとその意味がわかります。
“すぽり、こわれた、こわれた、帽子、/つばがすぽりとくびまで抜けた。”
そのおかげで、緊張していた二人が、うっかり笑ってしまうのです。
どんなに楽しい風景だったかは、“とんぼ、千も万も舞い舞いしてた。”でみごとな絵になって見えてきます。
みすゞさんは誰にも教わらなくても、童謡は言葉で絵を描く詩だと分かっていたのですね。
金子みすゞ記念館は二十周年を迎えても、たくさんなお客様をお迎えできていることを、心よりお礼申し上げます。
どうぞ、館の人たちとのおしゃべりも、お楽しみくださると館員みんな元気がでます。
令和5年11月1日
金子みすゞ記念館 館長 矢崎 節夫