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矢崎節夫館長コラム 「こわれ帽子」 2023年11月1日

ページID:0050306 更新日:2023年11月1日更新 印刷用ページを表示する

こわれ帽子

てんてん手毬、
おててん手から、辷ってころげて、
乞食の子供にひろわれた。

手まりは欲しし、怖さは怖し、
睨みゃ、睨んでほうってくれて、

行くか、帰るか、あち向きかけて、
麦藁帽子をすぽりとかぶりゃ、
すぽり、こわれた、こわれた、帽子、
つばがすぽりとくびまで抜けた。

くるり、ふりむき、アハハと笑うた、
私もうっかり、アハハと笑うた。

こわれ帽子の、そのゆくみちにゃ、
とんぼ、千も万も舞い舞いしてた。

「金子みすゞ童謡全集」JULA出版局

 みすゞさんの詩を読むと、ぼくの大好きなチャップリンの映画のような作品もあって、空からふさえさんの笑い声が聞こえてくるような気さえします。
 『こわれ帽子』です。まず声に出して読んでください。きっとその意味がわかります。
 “すぽり、こわれた、こわれた、帽子、/つばがすぽりとくびまで抜けた。”
 そのおかげで、緊張していた二人が、うっかり笑ってしまうのです。
 どんなに楽しい風景だったかは、“とんぼ、千も万も舞い舞いしてた。”でみごとな絵になって見えてきます。
 みすゞさんは誰にも教わらなくても、童謡は言葉で絵を描く詩だと分かっていたのですね。
 金子みすゞ記念館は二十周年を迎えても、たくさんなお客様をお迎えできていることを、心よりお礼申し上げます。
 どうぞ、館の人たちとのおしゃべりも、お楽しみくださると館員みんな元気がでます。

 

 

令和5年11月1日

金子みすゞ記念館 館長 矢崎 節夫

 

 


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