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矢崎節夫館長コラム 「美しい町」 2023年7月1日
美しい町
ふと思い出す、あの町の、
川のほとりの赤い屋根。
そうして、青い大川の
水のうえには白い帆が、
静かに、静かに、動いてた。
そうして、川岸の草のうえ、
若い絵描きの小父さんが、
ぼんやり水をみつめてた。
そうして、私は何してた。
おもい出せぬとおもったら、
それは誰かに借りていた、
御本の挿絵でありました。
「金子みすゞ童謡全集」JULA出版局
銀座松屋で行なわれた“百年の時を越えて、金子みすゞの詩”展は、遠くは仙台、諫早からもおいでくださり、盛況のうちに終わりました。自筆を拡大した展示が大変好評でした。
第一童謡集の題にもなった『美しい町』を読むと、みすゞさんは童謡の書き方を誰にも教わらなくても、きちんと出来ていることに驚かされます。
童謡は詩ですが、ただの詩ではなく、言葉で絵を描く詩です。だから、読んで絵が浮かんでこないものは、童謡にはなりません。
『美しい町』で、赤い屋根、青い大川、白い帆と、色彩豊かにうたっています。
みすゞさんはこの世の全てを、“見た”のではなく“観た”のでしょう。みすゞさんにとって童謡を書くということは、出合った全てを忘れがたくすることだったにちがいありません。
このみすゞさんのまなざしを大切にする記念館でありたいと館員一同思っております。
令和5年7月1日
金子みすゞ記念館 館長 矢崎 節夫