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矢崎節夫館長コラム 「薔薇の根」 2023年5月1日
薔薇の根
はじめて咲いた薔薇は、
紅い大きな薔薇だ。
土のなかで根がおもう。
「うれしいな、
うれしいな。」
二年めにゃ、三つ、
紅い大きな薔薇だ。
土のなかで根がおもう。
「また咲いた、
また咲いた。」
三年めにゃ、七つ、
紅い大きな薔薇だ。
土のなかで根がおもう。
「はじめの花は
なぜ咲かぬ。」
「金子みすゞ童謡全集」JULA出版局
5月になると、記念館の中庭に今もある、金子家の薔薇が大きな花を咲かせます。
この薔薇を見る度に思い出すのが、みすゞさんの『薔薇の根』です。
はじめて咲いた薔薇は/紅い大きな薔薇だ。 土のなかで根がおもう。/「うれしいな、/うれしいな。」
二年めにゃ、三つ、 「また咲いた、/また咲いた。」
ここまでなら、誰にでも書けるのです。でも、みすゞさんは違います。
三年めにゃ、七つ、 その時、“土のなかで根がおもう。/「はじめの花は/なぜ咲かぬ。」
最初に咲いた時の初心を忘れ、いつの間にか数や量に心うばわれやすいのが、私たち人間です。
でも、みすゞさんは違います。初心を忘れていないか、深く自分に戻すのです。この厳しさがあって、深いおもいやりが生まれるのです。
初心を忘れずに館員一同、いつもこの気持ちをもって、二十一年目もお迎えします。
令和5年5月1日
金子みすゞ記念館 館長 矢崎 節夫