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矢崎節夫館長コラム 「草原の夜」 2022年11月1日
草原の夜
ひるまは牛がそこにいて、
青草たべていたところ。
夜ふけて、
月のひかりがあるいてる。
月のひかりのさわるとき、
草はすっすとまた伸びる、
あしたも御馳走してやろと。
ひるま子供がそこにいて、
お花をつんでいたところ。
夜ふけて、
天使がひとりあるいてる。
天使の足のふむところ、
かわりの花がまたひらく、
あしたも子供に見せようと。
「金子みすゞ童謡全集」JULA出版局
『草原の夜』を読むと、さわやかに晴れわたった秋空の下にいるような、晴ればれとした気持ちになります。
食べられてしまった青草は、つまれてしまった花は、もう伸びるのをやめた、もう咲くのをやめたと思っていいのです。でも、そこで終らないのが、みすゞさんのすごさです。
美しいものや行為に出合った時、うれしい方へ、やさしい方へ心が動くのです。またのびようと、また咲こうと。
私たち人間も同じですね。
辛いことや、悲しいことに出合うと、自分の存在をも否定したくなりますが、この作品を読むと、自分という存在が必ず誰かの役に立っているという喜びに出合えて、心がふっと開放されていくような気持ちになります。
金子みすゞさんがいてくれて、本当によかったなと思います。
みすゞさんに出合える記念館として、館員一同心あかるくお待ちしております。
令和4年11月1日
金子みすゞ記念館 館長 矢崎 節夫