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矢崎節夫館長コラム 「もくせいの灯」 2022年9月1日
もくせいの灯
お部屋にあかい灯がつくと、
硝子のそとの、もくせいの、
しげみのなかにも灯がつくの、
ここのとおんなじ灯がつくの。
夜更けてみんながねねしたら、
葉っぱはあの灯をなかにして、
みんなで笑って話すのよ、
みんなでお唄もうたうのよ。
ちょうど、こうしてわたしらが、
ごはんのあとでするように。
窓かけしめよ、やすみましょ、
みんなが起きているうちは、
葉っぱはお話できぬから。
「金子みすゞ童謡全集」JULA出版局
仙崎の路地を歩いていると、ふわっとやさしい甘い香りに出合うことがあります。
キンモクセイの香りです。
青空からふってくるトンビのヒュルルーという透明な鳴き声とキンモクセイの香り――、
みすゞさんはこうして9月の訪れを感じたのだと思うと、変わることのない仙崎の季節に出合えて、うれしくなります。
『もくせいの灯』を読むと、葉っぱが笑ったり、唄ったりしていて、みすゞさんの全ての存在に対して、やさしく、深いまなざしがゆるぎないことに感動します。
一冊でみすゞさんの全ての作品が読める、金子みすゞ童謡全集(JULA出版局)が、来年のみすゞ生誕120年を記念して出版されました。装丁は友人の高畠純さんです。若草色に銀の箔押しの美しい一冊です。
マスクをしていても、笑顔で! いつでもほっとできる記念館であるように、館員一同心よりみなさまをお待ちしております。
令和4年9月1日
金子みすゞ記念館 館長 矢崎 節夫