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矢崎節夫館長コラム 「こぶとり」 2021年9月1日
こぶとり - おはなしのうたの一 -
正直爺さんこぶがなく、
なんだか寂しくなりました。
意地悪爺さんこぶがふえ、
毎日わいわい泣いてます。
正直爺さんお見舞だ、
わたしのこぶがついたとは、
やれやれ、ほんとにお気の毒、
も一度、一しょにまいりましょ。
山から出て来た二人づれ、
正直爺さんこぶ一つ、
意地悪爺さんこぶ一つ、
二人でにこにこ笑ってた。
「金子みすゞ童謡全集」JULA出版局
9月は『こぶとり』です。
この物語りは鎌倉前期の『宇治拾遺物語』に載っていて、二人の人はある爺さんとある男でしたが、みすゞさんが読んだ明治には、正直と意地悪という言葉が付きました。でも、なにが正直で、どこが意地悪かの理由は全く書かれていないのです。
二人の違いといったら、一人は鬼と仲良くなれる、社交的で、運動神経ばつぐん、一人は内気で、人見知りで、運動がにがてということだけでしょう。その上、こぶを二つもついた爺さんはおいおい泣いて終るのです。
こんなのいやだ、と思ってみすゞさんは“二人でにこにこ笑ってた。”と書いたのです。この一行がみすゞさんのすばらしさ!
朝起きて鏡を見たら「にこにこ」しましょう。一日で鏡を見る度に、意識して「にこにこ」しましょう。気持ちがあかるくなりますから。金子みすゞ記念館は笑顔の記念館をめざしています。
令和3年9月1日
金子みすゞ記念館 館長 矢崎 節夫