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矢崎節夫館長コラム 「草原の夜」 2019年11月1日
草原の夜
ひるまは牛がそこにいて、
青草たべていたところ。
夜ふけて、
月のひかりがあるいてる。
月のひかりのさわるとき、
草はすっすとまた伸びる。
あしたも御馳走してやろと。
ひるま子供がそこにいて、
お花をつんでいたところ。
夜ふけて、
天使がひとりあるいてる。
天使の足のふむところ、
かわりの花がまたひらく、
あしたも子供に見せようと。
「金子みすゞ童謡全集」JULA出版局
『草原の夜』は大好きな作品です。声に出して読むと、心がほっとあたたかくなります。
牛に食べられた青草は、「もう伸びない」と思ってもいいのです。でも、”草はすっすとまた伸びる。/あしたも御馳走してやろと。”と思うのです。
それは、美しい月の光にさわられたからですが、月の光はけして「明日も牛に御馳走してやりなさい」とはいいません。ただ美しい光を青草に投げかけているだけなのです。
子供と、お花と、天使も同じです。
誰かのためではなく、それぞれのすべき事をまっすぐにしているのです。その事が結果として、誰かのお役に立っているのですね。
情報があふれて、つい自分のすべき事を忘れがちになりますが、みすゞさんの作品を読むと、みすゞさんはどんな時でも、みすゞさんであり続けていて、すごいなと思います。
11月がみなさまにとって、心穏やかな秋でありますよう、館員一同深く願っています。
令和元年11月1日
金子みすゞ記念館 館長 矢崎 節夫