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矢崎節夫館長コラム 「仔牛」 2019年6月1日
仔牛
ひい、ふう、みい、よ、踏切で、
みんなして貨車をかずえてた。
いつ、むう、ななつ、八つめの、
貨車に仔牛がのっていた。
売られてどこへゆくんだろ、
仔牛ばかしで乗っていた。
夕風つめたい踏切で、
皆して貨車をみおくった。
晩にゃどうしてねるんだろ、
母さん牛はいなかった。
どこへ仔牛はゆくんだろ、
ほんとにどこへゆくんだろ。
「金子みすゞ童謡全集」JULA出版局
「仔牛」は一編の詩ですが、短編映画を見ているような美しい作品です。
母さん牛がいないことに気づいた子どもたちは、去っていく貨車を見送りながら、「どこへ仔牛はゆくんだろ、/ほんとにどこへゆくんだろ。」と、さみしさと不安でいっぱいになっている姿が印象的です。
「ぞうさん」の詩人、まどみちおさんは見送りかたのとても美しい方でした。
お宅にうかがっての帰り、いつも奥さまと二人で外まででていらして、ずっと見送ってくださいました。ふり返った時、見送ってくださる姿を見ることは、とっても倖せでした。
見送るとは、見守るということだと、その時、深くこころにしみました。
金子みすゞ記念館も、お迎えする時はもちろんですが、見送りかたを大切にできる館でありたいと、館員一同思っています。
今年も忘れずにつばめが子育てを始めました。かわいいなき声でお待ちしています。
令和元年6月1日
金子みすゞ記念館 館長 矢崎 節夫