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矢崎節夫館長コラム 「仔牛」 30年9月1日
仔牛
ひい、ふう、みい、よ、踏切で、
みんなして貨車をかずえてた。
いつ、むう、ななつ、八つめの、
貨車に仔牛がのっていた。
売られてどこへゆくんだろ、
仔牛ばかしで乗っていた。
夕風つめたい踏切で、
皆して貨車をみおくった。
晩にゃどうしてねるんだろ、
母さん牛はいなかった。
どこへ仔牛はゆくんだろ、
ほんとにどこへゆくんだろ
「金子みすゞ童謡全集」JULA出版局
夕焼けの美しい季節になりました。夕焼けを見ると、よく「仔牛」を思い出します。
“ひい、ふう、みい、よ、踏切で“子どもたちが通りすぎる貨車をかぞえています。
“いつ、むう、ななつ、八つめの、/貨車に仔牛がのっていた。“
それまで楽しく数をかぞえていた子どもたちは、仔牛を見たとき、通りすぎる貨車の中に、母さん牛をさがし始めます。そして、いないと気づいた時、楽しかった子どもの心はさみしさとかなしさでいっぱいになるのです。
“晩にゃどうしてねるんだろ、/母さん牛はいなかった。“
子どもたちの心は、見えなくなった貨車の仔牛にずっと寄り添い続けていきます。
楽しさとかなしさ、二つで一つです。どちらも体験することで、人は優しさが深くなっていくのでしょう。
九月がみなさまにとって、穏やかな月でありますよう館員一同、心より願っております。
平成30年9月1日
金子みすゞ記念館 館長 矢崎 節夫