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矢崎節夫館長コラム 「白い帽子」 30年2月1日
白い帽子
白い帽子、
あったかい帽子、
惜しい帽子。
でも、もういいの、
失くしたものは、
失くしたものよ。
けれど、帽子よ、
お願いだから、
溝やなんぞに落ちないで、
どこぞの、高い木の枝に、
ちょいとしなよくかかってね、
私みたいに、不器っちょで、
よう巣をかけぬかわいそな鳥の、
あったかい、いい巣になっておやり。
白い帽子、
毛糸の帽子。
「金子みすゞ童謡全集」JULA出版局
寒い日が続きますが、みなさんおかわりありませんか。
冬になると落し物がふえます。それだけ寒さ対策に帽子やマフラー、手ぶくろを身につけるからでしょう。通りを歩いていて、へいやポストの上にちょこんと落し物が置いてあり、次にその前を通った時にもう失くなっていたりすると、とっても良い事に出合ったようでうれしくなります。
小さい人たちの落し物はよく見かけますが、同じように年を重ねるとよく失くします。そんな時、『白い帽子』を思いだします。
“惜しい帽子。//でも、もういいの、/失くしたものは、/失くしたものよ。”
本当にそうです。考えてみると、年を重ねるということは、今という時間を過去へとどんどん失くしていくことなのかもしれません。
失くしてしまった過去を惜しむより、今日という一番新しい一日を、一番新しい、新品の自分で大切に過ごしたいですね。
平成30年2月1日
金子みすゞ記念館 館長 矢崎 節夫