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矢崎節夫館長コラム 「お嬢さん」 29年11月1日
お嬢さん
道を教えた旅びとは、
とうにみえなくなったのに、
私はとぼんとしていたよ。
いつも私のかんがえる、
あのおはなしのお国では、
お姫さまともよばれても、
あたしは貧乏な田舎の子。
「お嬢さん、ありがとう。」
そっとあたりをみまわして、
なにかふしぎな気がするよ。
「金子みすゞ童謡全集」JULA出版局
子どもの頃、近所にきこえるくらいに大きい声で、「行って帰りやす」「行って帰りやした」というおじいさんがおられました。
「行ってきます」「ただいま」より、ずっと心が込もっているようで、小さい声でまねをすると、「はい。しっかり帰ってきてください」と母ににこにこといわれました。
「お嬢さん、ありがとう。」
思いもかけない言葉に出合って、“私はとぼんとしていたよ。”“そっとあたりをみまわして、/なにかふしぎな気がするよ。”の少女の思わぬ倖せな気持がわかります。
言葉は、使う人の心柄が表われるのですね。
そして、言葉は最初にきくのは自分です。心柄の表われるうれしい言葉を使ってくれると、まず自分自身が倖せになり、きく人は森林浴以上の言葉浴に出合って、何倍も倖せになれるのです。
寒い日が続きますが、うれしい言葉で自分もまわりの人も心あたたかくお過ごし下さい。
平成29年11月1日
金子みすゞ記念館 館長 矢崎 節夫