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矢崎節夫館長コラム 「こわれ帽子」 29年9月1日
こわれ帽子
てんてん手毬、
おててん手から、辷ってころげて、
乞食の子供にひろわれた。
手まりは欲しし、怖さは怖し、
睨みゃ、睨んでほうってくれて、
行くか、帰るか、あち向きかけて、
麦藁帽子をすぽりとかぶりゃ、
すぽり、こわれた、こわれた、帽子、
つばがすぽりとくびまで抜けた。
くるり、ふりむき、アハハと笑うた、
私もうっかり、アハハと笑うた。
こわれ帽子の、そのゆくみちにゃ、
とんぼ、千も万も舞い舞いしてた。
「金子みすゞ童謡全集」JULA出版局
みすゞさんの『こわれ帽子』を読むと、チャップリンの映画を見ているような、ゆかいで楽しい気持ちになります。
遊んでいた手まりが、ころげて、ひろわれたのです。「手まりは欲しし、怖さは怖し、/睨みゃ、睨んでほうってくれて、」で、女の子と男の子の緊張した空気が分かります。
男の子は一緒に遊びたいけど、そうもいかず、「行くか、帰るか、あち向きかけて、」、自分の気持ちを振り払うように、麦藁帽子をすぽりとかぶったのです。
その瞬間、「すぽり、こわれた、こわれた、帽子、/つばがすぽりとくびまで抜けた。」のです。そのおかしさで、ふたり共、アハハと笑ってしまったのです、どんなにふたりがゆかいな気持ちになったかは、「とんぼ、千も万も舞い舞いしてた。」でよく分かります。
暑さがまだ残り、夏の疲れもでる九月です。
『こわれ帽子』を読んで、アハハと笑って、元気になってくださったらうれしいです。
平成29年9月1日
金子みすゞ記念館 館長 矢崎 節夫