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矢崎節夫館長コラム 「薔薇の根」 29年6月1日
薔薇の根
はじめて咲いた薔薇は、
紅い大きな薔薇だ。
土のなかで根がおもう。
「うれしいな、
うれしいな。」
二年めにゃ、三つ、
紅い大きな薔薇だ。
土のなかで根がおもう。
「また咲いた、
また咲いた。」
三年めにゃ、七つ、
紅い大きな薔薇だ。
土のなかで根がおもう。
「はじめの花は
なぜ咲かぬ。」
「金子みすゞ童謡全集」JULA出版局
記念館の中庭には、金子家のばらがあります。そのばらが花をつける度に、みすゞさんの『薔薇の根』を思い出します。
初めてばらの花がひとつ咲いた時、咲いた、咲いたとばらの根は喜びました。二年目には、大きいばらが三つ咲きました。〔また咲いた、/また咲いた。〕と、ばらの根は大喜びです。
そして、三年目には七つも咲いたのです。〔また咲いた。また咲いた。七つも咲いた〕と、ばらの根は大喜びするかと思うと、みすゞさんのばらの根はちがいます。
〔はじめのは/なぜ咲かぬ。〕
一年目の花のように、二年目、三年目になると、ひたむきで、一途ではなく、咲くことに馴れてしまうことへの自戒のことばです。
こだまでしょうか募金で東日本大震災の後、三県の学校に一万二千冊のみすゞさんの本を贈らせてもらいました。今は熊本地震復興応援として、休校を余儀なくされた地域に本をプレゼントしていますが、お礼の手紙や電話の中に「一冊一冊の手書きのメッセージに感激した」という言葉が多く入っています。
平成29年6月1日
金子みすゞ記念館 館長 矢崎 節夫