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矢崎節夫館長コラム 「柘榴の葉と蟻」 29年4月1日
柘榴の葉と蟻
柘榴の葉っぱに蟻がいた。
柘榴の葉っぱは広かった、
青くて、日陰で、その上に、
葉っぱは静かにしてやった。
けれども蟻は、うつくしい、
花をしとうて旅に出た。
花までゆくみち遠かった、
葉っぱはだまってそれ見てた。
花のふちまで来たときに、
柘榴の花は散っちゃった、
しめった黒い庭土に。
葉っぱはだまってそれ見てた。
子供がその花ひィろって、
蟻のいるのも知らないで、
握って駈けて行っちゃった。
葉っぱはだまってそれ見てた。
「金子みすゞ童謡全集」JULA出版局
4月は希望に満ちた旅立ちの月です。
そして、その旅立ちに倖多かれと祈る人にとっては、別れの月でもあります。
この時期になると、毎年、みすゞさんの『柘榴の葉と蟻』の詩を思います。
ザクロの葉っぱは、いつも小さいアリで心がいっぱいなのです。だから、日陰をつくったり、アリが葉から落ちないように静かにしたり、葉っぱは自分の出来ることを精一杯にしているのです。
″けれども蟻は、うつくしい、/花をしとうて旅に出た。″のです。
葉っぱに出来ることは、ただ見守るだけなのです。二連、三連、四連の終りの一行が、深く心に響きます。
あなたはアリでしょうか、それとも葉っぱでしょうか。
金子みすゞ記念館も4月11日で15年目に入ります。館員一同、みなさまのご来館を心からお待ちしております。
平成29年4月1日
金子みすゞ記念館 館長 矢崎 節夫