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矢崎節夫館長コラム 「人なし島」 28年8月1日
人なし島
人なし島にながされた、
私はあわれなロビンソン。
ひとりぼっちで、砂にいて、
はるかの沖をながめます。
沖は青くてくすぼって、
お船に似てる雲もない。
きょうも、さみしく、あきらめて、
私の岩窟へかえりましょ。
(おや、誰かしら、出て来ます、
水着着た子が三五人。)
百枚飛ばして、ロビンソン、
めでたくお国へつきました。
(父さんお昼寝、さめたころ、
お八つの西瓜の冷えたころ。)
うれしい、うれしい、ロビンソン、
さあさ、お家へいそぎましょ。
「金子みすゞ童謡全集」JULA出版局
ロビンソンとは、ロビンソン・クルーソーのことで、27歳のとき船が難破して、たった一人で無人島に流れ着き、28年間、自給自足の生活をした冒険小説で、18世紀のイギリスの作家、ダニエル・デフォーの作品です。
日本では明治時代から翻訳されていて、みすゞさんもその本を読んだのでしょう。
まだ誰も来ていない海岸で、ひとりでロビンソンごっこをしたのです。このロビンソンごっこは誰かが来たら終りです。
(おや、誰かしら、出て来ます、/水着着た子が三五人。)
そこで、本のページを百枚飛ばして、めでたくお国へお帰りです。わくわくとごっこ遊びを楽しんでいる、みすゞさんの姿が目に浮びます。
8月、全国からたくさんの方が、記念館においでくださっています。町で、海で、山で、楽しいことがいっぱいありますように心から願っています。
平成28年8月1日
金子みすゞ記念館 館長 矢崎 節夫