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矢崎節夫館長コラム 「足ぶみ」 28年3月1日
足ぶみ
わらびみたよな雲が出て、
空には春が来ましたよ。
ひとりで青空みていたら、
ひとりで足ぶみしました。
ひとりで足ぶみしていたら、
ひとりで笑えて来ましたよ。
ひとりで笑ってして居たら、
誰かが笑って来ましたよ。
からたち垣根が芽をふいて、
小径にも春が来ましたよ。
「金子みすゞ全集」(JULA出版局)
「足ぶみ」を口づさむと、楽しい気持ちになります。みすゞさんの言葉の力です。
1月にいただいた柳家小満ん師匠のお手紙の中に「春隣」という嬉しい言葉がありました。春のちょっと前とでもいうのでしょうか。「はるとなり」と声に出すだけで倖せな気持ちになります。それぞれの季節に「夏隣」「秋隣」「冬隣」という美しい言葉があって、日本語っていいなとにこにこしてしまいます。
小満ん師匠のお手紙やおハガキでは、いつも嬉しい言葉に出逢えるのですが、以前、ちょっとした喜びをお知らせした時に、「こぼれ幸いにて愉快です」とおハガキをいただきたことがありました。束の間の人生の中で、思わず出逢えた幸い、小さな倖せを愉快に思えたら、それだけで生きている喜びをいただけますね。
”ひとりで笑ってして居たら、誰かが笑って来ましたよ。”
嬉しいこぼれ幸いです。
平成28年3月1日
金子みすゞ記念館 館長 矢崎 節夫