かつて、日本海には冬になると多くの鯨が姿を見せていました。この鯨を捕らえて栄えたのが北浦地域で、長州捕鯨と呼ばれています。延宝元年(1673年)頃から鯨組が始められ、中でもその中心であった通浦は北浦捕鯨最大の基地として賑わいをみせていました。
当時の捕鯨は、沿岸近くを回遊する鯨を一定の網代に追い込み、網で囲んで銛で突きとる「網取捕鯨」が主流で、「鯨が一頭獲れれば七浦賑わう」といわれたように大きな繁栄をもたらしました。
しかし浦人たちは、犠牲となった鯨たちへの感謝や哀れみの情を忘れることはなく、「鯨墓」、「鯨位牌」、「鯨鯢過去帖」と三位一体での供養を営むようになりました。
明治半ばになって鯨の数も減り、近代様式捕鯨へと歴史は移り変わっていきますが、捕鯨が過去のものとなった今も、人々が残した伝統は数々の旧跡とともに静かに受け継がれているのです。
その代表的なものの一つに鯨唄があります。鯨唄は、江戸時代から明治末期まで続いた鯨組の納屋場作業や、宴席で歌い継がれてきた労働歌であり、また祝い歌でもありました。現在では、祝儀歌として結婚式や上棟式、船おろし等の宴席で歌われる習慣となっています。
歌う場合は、鯨太鼓2基を中心に円座をつくり、頭には赤いはちまきを締め、鯨への感謝と哀れみをこめ、祈るように両手をすり合わせながら合掌する形で歌われます。
市内では通地区、仙崎地区、川尻地区で鯨唄が受け継がれており、地区の行事等で歌われるほか、地元の小学生によっても歌い継がれています。
歴史、民俗資料を多数展示
通地区には多くの捕鯨に関する遺産や資料が残されています。その貴重な文化財を一堂に集め、鯨文化を後世に伝え、情報発信する拠点としてくじら資料館が平成5年に開館しました。
開館以来、市内外あるいは海外から多くの人が訪れ、昨年の6月には入館者が30万人を突破しました。
くじら資料館は1階が伝習室と事務室、2階が展示室と収蔵庫となっており、2階の展示室には国の重要有形民俗文化財に指定されている「長門の捕鯨用具」140点が展示され、鯨とともに生きた漁師の写真や古式捕鯨の道具、鯨唄に使われた太鼓など、当時の捕鯨文化や人々の生活の様子を伝えています。
このような歴史資料に触れると、私たちがいかに鯨と深い関わりを持ってきたかを感じることができます。くじら資料館では古式捕鯨の歴史とともに、鯨の体内から出てきた胎児を哀れみ、供養してきた浦人たちの優しい「心」も後世に伝えています
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■開館時間 9時00分~17時00分
■休館日 毎週火曜日(祝日の場合開館、翌平日休館) 、年末年始
■入館料 18歳以上/200円 、 6歳~18歳未満/100円
※団体料金(20名以上)
18歳以上/160円、6歳~18歳未満/80円
■問い合わせ くじら資料館 Tel・Fax:0837-28−0756